環太平洋経済連携協定(TPP)が重大な挫折に直面している。米大統領官邸の高官は、「オバマ政権は国内政局の変化をはっきりと認識しており、TPPの今後は次の大統領と議会の決定に委ねられることになった」と述べた。これはつまり、オバマ大統領の任期中に議会の投票でTPPを批准するという計画が実現不可能になったことを意味する。大統領選で当選したトランプ氏はTPP不支持の姿勢を明確にしており、TPPはこれから長らく「暗礁に乗り上げた」状態が続くものと予想される。(文:蘇暁暉 中国国際問題研究院国際戦略研究所副所長。人民日報海外版コラム「望海楼」掲載)
TPPが暗礁に乗り上げてしまったのは、オバマ政権の操作が適切でなかったからではない。実際のところ、オバマ大統領は多くの勢力と資源をTPPに注ぎ込んできた。国内では民主党と共和党の両党資源の統合に力を尽くし、2015年6月には議会で「貿易促進権限(TPA)法」を僅差で成立させた。この法律により議会では今後、TPPに関する投票で賛成票か反対票しか投じることができなくなり、条項の改定や修正案の付加ができなくなった。つまり、TPPを促進する「快速ルート」が開かれたということだ。国外では、オバマ大統領は二国間プラットフォームや多国間プラットフォームを利用してTPP加盟国とのコミュニケーションをはかり、TPP協定の交渉と署名を後押しし、公開の場でTPP成立に向けたコメントをたびたび発してきた。
TPPが暗礁に乗り上げた原因は多方面にわたる。まず、公平性と透明性と代表性に対し長らく各方面から疑問の声が上がっていた。加盟国もTPPの効果について心中に疑問を抱えており、各国の批准のプロセスには不確定要因が多数存在していた。次に、TPPには先天的な欠陥があり、自由貿易と相互利益の協力を促進することを重要任務とするのではなく、米国がうち出した重い戦略的責任を背負わなくてはならないという問題点があった。
一方で、米国はTPPを自国が国際ルールを掌握するための武器にしようという意図をもっている。2008年、米国はシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国が参加する自由貿易協定(P4)をベースにしてTPPの構想をうち出し、オーストラリア、ペルー、ベトナムに参加を要請し、交渉を主導するようになった。さらにマレーシア、カナダ、メキシコ、日本が加わって、世界の国内総生産(GDP)の40%と貿易額の3分の1を占めるようになり、成立すれば史上最大の自由貿易協定になる規模へと拡大した。TPPは労働条件、政府調達、国有企業、知的財産権、環境保護など各分野で過酷ともいえる「高い基準」をうち出した。有識者からみれば、米国はTPPをよりどころに国際経済貿易、投資、サービスのルールを主導しようとしており、世界貿易機関(WTO)の力を弱めようとすることは明らかだという。