【新華社東京4月14日】中国北京の児童合唱団を乗せたバスが1月下旬、東京の首都高速を南下し、訪問先の在日中国大使館を目指していた。車内では、初めての訪日で興奮と緊張を抑えきれない中国の子供たちを前に、一人の女性が温かい歓迎のあいさつを述べていた。声の主は高山英子さん、NPO法人東方文化交流協会の理事長だ。
高山さんは1950年、中国東北部の吉林省長春市で中国人の父親と日本人の母親との間に生まれた。地元の歌舞団からスカウトが来るほど、幼い頃から歌と踊りに秀で、それが後に音楽教師という職業につながった。中学2年の時、父親を亡くし、中国語がほとんど話せない母に代わり、懸命に一家を支えた。やがて、音楽教師としての地位を築き、結婚して一人息子にも恵まれ、充実した日々を送っていたが、母親たっての希望で一家は新天地日本に生活の場を移すことになった。1985年、高山さん35歳のことだった。
まだ日本語が話せない高山さんがなんとか見つけた仕事は、革工場でのアルバイト。男性さえ音を上げるほどの、危険で厳しい作業の連続だったが、高山さんは決して弱音を吐かなかった。むしろ工場の仲間と楽しみを見つけながら、2年間勤めあげた。その後は、中国の工芸品を全国のデパートなどで販売する仕事を手伝うことになる。ある時、デパートの担当部長から急遽通訳を依頼された。通訳を無事成功させた経験から、高山さんの中で何かが弾けた。「日本と中国を繋ぐ仕事で貢献したい」。
高山さんは、たった一人で旅行会社を立ち上げた。日本人に中国を理解して好きになってもらいたい。その想いから、高山さんが引率する中国ツアーには必ず現地の人達との交流があった。高山さんの細かな気遣いや温かい配慮が口コミで広がり「高山さんとならぜひ」とツアーの依頼が次々と舞い込んだ。
そんな折、気心が知れた客との間で「ビジネスとしてではなく、純粋に日中友好のために貢献しよう」という話が持ち上がった。1995年「東方文化交流協会」が発足。中国人の父、日本人の母によって自分は育まれてきた。中国と日本の懸け橋になって恩返しをしたい。高山さんが抱えてきた思いが、ようやく形になった。中日間だけでなくアジア全体を俯瞰する友好交流を行うため、協会の名称には「東方」を冠した。
発足当時は、中国語や中国料理、太極拳などの分会を設け、中国各地への視察旅行を実施した。やがて会員数が数百人に上り、各地に支部組織も立ち上がると、活動内容も広がった。特に2008年の「第10回東方文化祭り」は協会の記念碑的な活動となった。北京の人民大会堂を会場に、10代から80代の中国人と日本人400人以上が中日友好の下に集い交流を深めた。往年の映画スターらも大勢駆けつけ、華を添えた。この時の様子は中国の中央電視台(CCTV)はじめ、多くのマスコミに取り上げられた。
協会は社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。2003年には、協会と高山さん個人が建設費を寄付し黒竜江省孫呉県に「希望小学校」を建設した。同県は戦時中に日本軍の毒ガスが放棄され、撤去作業が続く場所。協会会員の父親が戦時中、同県にいたことも学校建設の縁となった。ほかにも、雲南省や河南省の貧困地域の子供たちへ学用品を寄贈するなど、各地で教育支援活動を行い、中国の砂漠地帯の拡大を防ぐため、甘粛省敦煌郊外での植林活動も長期的に取り組んでいる。植林活動が認められ、2005年には現地に記念碑が建てられ、地元政府から証書が授与された。2008年の四川大地震や、協会が長年交流を続けている江蘇省塩城市で2016年に発生した大竜巻の被災地にも、協会は義援金を送り復興を支援した。
協会の活動で高山さんが特に力を入れているのは、未来を担う青少年の交流と支援だ。塩城市の中学校視察を機に、同市の中高生を何度も日本に招聘した。2017年は北京の少年野球チームと東京の葛飾区と新宿区の少年野球チームとの親善試合も初めて開催した。冒頭の児童合唱団は山梨県の中学校と音楽で交流を深めた。日本滞在期間はわずか1週間程度でも、子供たちは一回り成長して中国へ帰っていく。高山さんはそんな光景を数え切れないほど目にし、交流活動の持つ力を実感してきた。
高山さんのその温かい眼差しは、日本に留学中の中国の若者にも向けられている。日頃勉学やアルバイトで忙しい留学生向けに、バスツアーを企画して交流を深めるなどの支援を行っている。また学習意欲を高める日本語スピーチコンテストも協会の恒例事業で、昨年は初めて日本人学生による中国語スピーチも行い、教育を通した青少年交流が実現した。
中国と日本の懸け橋になろうと高山さんを突き動かしているのは、両国の未来を託す若者たちへの期待だ。「未来を担う青少年が互いの国を好きになってくれればいい」。これからも力の続く限り中日交流の道を歩んでいく。
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