日本のファンタジー文学界では誰もが知る作家・夢枕獏(ゆめまくらばく)の長編伝奇小説「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」のシリーズ小説が最近、中国の編集出版プロダクション「磨鉄図書」から続々と刊行され、陳凱歌(チェン・カイコー)監督が手掛ける、同小説を原作とした映画「空海―KU-KAI―(中国語名:妖猫伝)」も現在製作中だ。映画がクランクインする前に、夢枕獏と陳凱歌監督は共に唐の都が完全再現された湖北省襄陽市を視察し、原作に対する敬意を表した。(文:陳夢溪。北京晩報掲載)
2016年、小説を基にした中国のスマホゲーム「陰陽師」は、全く型にはまらないその内容でネットユーザーの間で好評を博し、今でもその人気は衰えを見せていない。今年12月22日に公開予定の「空海―KU-KAI―」もそのゲームと同じく、ジャンルはファンタジー。どちらも、夢枕獏が手掛けているという共通点がある。
ゲーム化された「陰陽師」にしても、映画化された「空海―KU-KAI―」にしても、夢枕獏の作品は、それをもとにした関連作品がヒットしたため、中国では大きな注目を集め、日本のこの種のファンタジー小説も中国で人気が高まっている。「空海―KU-KAI―」では、原作がどれほど再現されているかに注目が集まっており、公開されれば読者たちがその点について評価を下すだろう。
夢枕獏は、「日本のファンタジー小説における最強の覇者」と呼ばれており、そのリメイク作品は近年、中国で好評を博している。夢枕獏の本名は米山峰夫で、1951年に神奈川県小田原市で生まれ、73年に東海大学文学部日本文学科を卒業した。そのときの経験を通して、夢枕獏は現実世界の空気を吸い、リアルな「現実感」を養った。それが、「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」という壮大な物語を支える大きな力となっている。
「空海―KU-KAI―」で起用されているネコも多くの猫から選出されたというのは興味深い。小説の中で描かれているこの皇帝・徳宗の死を予言するネコの妖物は読者に愛される存在で、人間の世界をユニークな観点から見ており、多くのことを見抜いているものの、人間の世界にも干渉する立場をとっている。そして、さまざまな怪奇現象を起こしながら、完全にそれを楽しむ。その役を担うのは幾度もの選考を経て選ばれた黒猫「Luna」で、映画の中で非常に重要な役を担っている。
意外にも夢枕獏はこれまでに中国を15回も訪問しており、最も好きな小説は中国の「西遊記」と「搜神記」という。1986年、夢枕獏は陝西省西安市を出発して、唐の時代の中国の訳経僧・玄奘三蔵の足跡をたどって西へ向かい、古跡を探しながら、創作のための資料を収集した。そして、87年と88年には「西遊記」の舞台となった場所をたどり、新疆維吾爾(ウイグル)自治区トルファン市や天山山脈を旅した。
中国の歴史からインスピレーションを得て小説を書き、夢枕獏は非常に多くの人の間で認められる存在になった。夢枕獏の作品は日本の小説界でも、「その実力を十分に発揮できれば、古典作品を書くこともできるだろう」という新たな評価も得ている。
夢枕獏によると、日本人が感じる楊貴妃の美しさは、彼女の悲劇と関係があるという。「悲しみ」があってこそ、美しさが一層引き立つというのだ。加えて、その背後には中国唐の詩人・白居易によって作られた長編漢詩「長恨歌(ちょうごんか)」の存在もある。同作品は平安時代に日本に伝わり、絶対的な名作として日本の学校で漢詩を学ぶ時に紹介される。そして、教師は、「『長恨歌』の全てを暗記すれば、中国の漢詩を理解できる」と生徒に教えている。「僕は今でも『長恨歌』を暗記できていないけど、先生のその言葉はずっと覚えている」と夢枕獏。
「空海―KU-KAI―」は、平安時代初期の僧で、「弘法大師」という呼び名(諡号)で知られる真言宗の開祖である空海(774-835年)が主役。「長恨歌」をベースに、大胆にも李白、高力士、阿倍仲麻呂、白居易、柳宗元、韓愈などの人物を使い、楊貴妃の死をきっかけにして起こる一連の怪奇事件を描いている。作者の宇宙観が存分に発揮され、歴史ファンタジー大作に仕上がっている。
(人民網日本語版)
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