韓国貿易協会国際貿易研究院は2015年、中日韓の若者の創業に関する報告書をまとめた。同調査によると、同じ首都圏の大学生であっても、卒業後に創業を希望する割合は中国が40.8%、韓国が6.1%、日本が3.8%となっている。おなじ東アジア諸国であり、文化 伝統にも多くの共通点があるにも関わらず、若者の創業への態度にこれほど大きな違いがあるのはなぜだろうか?
中国人エコノミストの瞬雨氏は、「中国政府は『大衆創業 万衆革新』を力強く推進しており、中国の若者は創業はすばらしいことだと考えている。これにより、社会のブームが形成された。韓国と日本政府はこれをそれほど推進しておらず、助成策も多くない」と分析した。記者は取材を通じ、政府側以外の原因を目にした。生計を立てるのに忙しい韓国社会と、規則を重視する日本社会だ。
革新重視の中国、伝統重視の日韓
MyCOSと社会科学文献出版社による「2016年中国大学生就業報告書」が、6月に発表された。同報告書によると、大学生の自主創業の比率は2013年度卒の2.3%から2015年度卒の3%に上昇した。それほど高い比率に見えないが、国家統計局の「2015年国民経済 社会発展統計公報」によると、大卒者の数は680万9000人にのぼる。そのため2015年度卒の大学生のうち、約20万4000人が創業を選択したことになる。これとは対照的に、国有企業を就職先に選ぶ大学生の割合は、2013年度卒の22%から2015年度卒の18%に低下した。
韓国の状況は中国とあまり一致しない。記者は創業を目指す韓国の若者を取材しようとしたが、難航した。記者が韓国の若い知人から得た情報によると、「鉄の食い扶持」と呼ばれる公務員、検察官、弁護士、医師、大企業が、多くの若者が目指す職業となっている。
韓国の若者が創業に消極的なことには、若者の失業が深刻な社会問題になっているという原因がある。韓国統計庁のデータによると、韓国の今年10月の若者の失業率は8.5%で、同月としては17年ぶりの高水準になった。今年6月にはこの失業率が10.3%に上昇し、17年ぶりの高水準を記録した。そのため多くの韓国の若者は、「やむなく」創業を考える。「中日韓青年創業報告書」によると、やむなく創業した韓国の創業者の割合は30.2%で、中国の10.7%と日本の9.1%を大きく上回る。同報告書の調査対象は、中日韓の500人以上の大卒者。
日本の若者の創業も低迷している。中小企業庁が2011年に発表した報告書によると、創業の意向を持つ人は1987年に178万4000人いたが、90年代に入ると激減し、2007年には101万4000人にまで減少した。40歳以下の創業主力軍は、1987年の49.8%から2007年の41.5%に低下した。
中日の商取引に従事する日本人は記者に「私は三菱の山本ですは、私は山本商店の社長ですよりもインパクトがある。日本人がステータスを得るには、就職前に勉学に勤しみ、就職後は仕事に勤しまなければならない」と話した。中国人は学歴 職歴を問わないことを重視するが日本は異なり、出世ルートが狭く限られている。
創業の熱意に「温度差」があり、創業の動機と方向性も異なる。上述した韓国貿易協会国際貿易研究院の報告書によると、韓国の大学生の31.3%が外食業などに興味を持つが、中国の若者は「革新型」と関連するIT分野(20.1%)に注目している。韓国統計庁のデータによると、20代の韓国人創業者のうち74%が、外食やコンビニなどのサービス業に集中している。記者の取材によると、日本人の創業も限られており、レストラン、カフェ、各種事務所に集中している。
創業を避ける理由
なぜ創業しないのか?伊藤征樹さん(40)は2013年に創業を思い立ち、北京で日本の家庭料理を教える教室を開いた。伊藤さんは「規則を重視する日本では、通学、勤務、結婚、子育て、定年退職というレールが敷かれている。他人と異なることをすれば、おかしいと見られる。そのため日本の多くの若者は、創業という選択肢に思い至らない。両親は一生会社員で、創業者と接する機会がほとんどない。日本では、創業は危険なこととされている。頭のいい人が創業に成功しても、部下に創業を勧めることはなく、計画された仕事をしっかりやることだけを願う」と話した。
「創業は危険」これは韓国KBSテレビの某番組が唱えた説かもしれない。同番組によると、中国の若者が創業に成功するまで「国と社会が許す失敗の回数」が2.8回であり、米シリコンバレーで創業する若者の失敗の回数と同等だという。日本は1回、韓国は1.3回。失敗できる回数が少なければ、挑戦できるチャンスが少なくなる。
創業資金は、日本人の創業の難題となる。彼らはなかなか数百万円の融資を得られない。瞬氏は中国の状況について「若い世代の多くが甘やかされて育った一人っ子で、何をするにしても家族から支援を受けようとする。創業は金がかかる。ベンチャー投資はプロジェクトの成長期に介入しようとし、草創期の費用は自分で集めなければならない。若者は家族の支援がなければ困難だ」と指摘した。「2016年中国大学生就業報告書」のデータも、専門家の観点を裏付けている。2015年度卒業生の自主創業の資金は、両親 親戚 友人の投資、融資、個人の貯蓄が78%となっている。商業目的のベンチャーキャピタル、政府からの支援は5%未満と低い比率だ。
資金、人脈、経験などの原因により、日本の創業者が「高齢化」している。韓国の状況にも、日本と似た点がある。韓国の若者が最も懸念しているのは「創業失敗のリスク」だ。「中日韓青年創業報告書」の調査によると、韓国人回答者の38%がこれを挙げた。中国人は17.8%。韓国の若者の創業の多くが、技術力の低い競争が激しい分野に集中しており、ハイテク 先端産業が少なくなっている。これにより、創業の失敗が深刻化している。韓国統計庁が昨年10月に国会に提出した統計データによると、若者が創業した小企業のうち、1年内に倒産する割合が51%、5年内が83%に達する。
記者の調べによると、韓国の若者が創業しにくいことには、全体的な不況の他に、次のような原因がある。韓国の大財閥が、中小企業の経営を脅かしているのだ。中年層は50歳ほどになると退職し、一定の資金力により自身の企業を設立する。そのため韓国の若者は、技術力の低い分野の創業で、親の世代と競争しなければならない。韓国の金融業には、若者の創業をないがしろにする伝統があり、多くの若者が貸し渋りの問題に直面している。
記者の調べによると、日本政府も軽率に創業 革新を奨励しない。市場が小さく、一部企業の既得権益に抵触する恐れがあるからだ。別のデータによると、日本では創業の意向を持つ人が増えているが、実行する割合は4分の1にも満たない。
中国の創業の意欲は旺盛に見える。瞬氏は「新商品開発により社会にプラスの影響をもたらすことができるが、リスクも大きい。若者は革新で軽率に方針を決め、多くの未知数が残される状況であっても、試そうとする。とは言え創業は徐々に成熟し、発展するものであり、いつか必ず成熟する時がくる。若者が挑戦し続けるよう奨励するべきだ」と述べた。
(チャイナネット)
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