【新華社東京12月14日】ある日本の小学校教師が30年もの間、南京大虐殺の真相を探る長く果てしない道を歩んできたのはなぜなのか。
1人のかよわい女性が日本の右翼のさまざまな嫌がらせに直面しても、志を曲げないのはなぜなのか。
彼女が数十年間も母国の侵略の歴史を明らかにし続け、それを生涯の事業とするのはなぜなのか。
歴史の真相のために決して妥協しない。この確固とした信念こそが、南京大虐殺の歴史研究者で日本市民団体「銘心会南京」代表の松岡環氏(70)を支えている。
■歴史の真相を探る
松岡氏は、第二次世界大戦後、日本国憲法が施行された1947年に生まれた。関西大学歴史学部を卒業した彼女は、大阪府のある小学校の歴史を教える教師となった。教鞭をとるうちに、松岡氏は日本の教科書が日本人の戦争における悲惨な境遇を懸命に描きながら、中国を含むアジア各国に対して日本が危害を加えた歴史には触れようとしていないことに気づいた。彼女は、日本軍が中国に侵攻した際、この世のものとは思えないほど悲惨な南京大虐殺を生じさせたことを知った。そして、歴史学部出身の彼女はそれまで、これを全く知らなかったのだ。
真相は一体何なのか。このような疑問を抱きながら、松岡氏は1988年8月15日に初めて南京を訪れ、そこで日本の中国侵略戦争に関する展示を見学した。被害者が強姦されたり、頭をたたき切られたりする紹介を見た後、その残酷な真相に彼女の眼には涙があふれた。
この南京への旅の際に、松岡氏は大虐殺の生存者である李秀英さんにも出会い、初めて被害者の証言を聞いた。李さんは日本軍の強姦に抵抗し、銃剣で37カ所も突き刺され、7カ月になる胎児を流産した。松岡氏はその後記者に対し、胸がえぐられる思いだったと語っている。彼女がさらに心を痛めたのは、李さんが自分の悲惨な経験を語った後に、「今でも日本人を見ると気分が悪い」と淡々と語ったことだった。
あの時、松岡氏は中国語が分からなかったが、李さんの表情から理解できた。彼女は、南京大虐殺の歴史の真相の背後にどのような痛みが隠れているかということをついに理解した。
それから、松岡氏は頻繁に日本と南京を往復し、中国を侵略した日本の老兵と大虐殺の生存者を訪ねた。2002年、松岡氏が編集した『南京戦・閉ざされた記憶を尋ねて-元兵士102人の証言』が日本で出版された。彼女はさらに、各方面の証言に基づくドキュメンタリー映画『南京 引き裂かれた記憶』も制作した。
■圧力に屈しない
松岡氏は子供たちに向かって真相を語り続け、日本が危害を与えた歴史を明らかにし続けてきた。このため、陰に陽に攻撃や中傷も受けてきた。 右翼組織はかつて、彼女の勤務している学校でもめごとを起こし、松岡氏が「子供たちにうそを教える教師だ」と中傷する宣伝ビラをあちこちにばらまいた。彼女を失望させたのは、右翼の嫌がらせに直面した学校と教育委員会が表に立って彼女を守ろうとしなかったことだ。それだけでなく、学校は彼女に教科書以外の内容を教えてはならないとも警告し、さらに給与の引下げなどの手段で脅すことさえした。そして、学校はその後、彼女に6年生の歴史の授業を担当させることはなかった。
しかし、たとえ授業ができなくても、松岡氏は学校が公正な歴史教育を行うよう引き続き訴え続けた。彼女は、今の日本社会の歴史に対する認識は被害者の感情を全く考慮しておらず、このような歴史観は利己的・狭量で、非常に危険でもあると考えている。
■記憶は消せない
今年11月26日、松岡氏は大阪市で南京大虐殺80周年記念活動を開催し、500人を収容できるホールは満席となった。ただ、出席して証言を行う予定だった元日本兵の三谷翔氏は9月にこの世を去った。 三谷氏はかつて海軍に所属していた。日本軍が南京を攻略した後、彼は艦隊とともに南京に到着し、大虐殺の惨劇を目撃した。松岡氏と彼は20年来の知人で、彼女は彼の証言を繰り返し聞き、彼が証言するシーンを撮影している。
松岡氏は、三谷氏が証言することを望んだのは、南京大虐殺の残酷さと戦争の悲惨さを世の中の人に知らせることだけが、より一層平和について考えるよう人々を動かせると彼が考えていたからだと言う。「私は彼の遺志を受け継ぎ、真相を伝え続ける」と彼女は語った。
80年後の今日、一部の日本人は依然として南京大虐殺を否定している。そして、時がたつにつれ、大虐殺の生存者はますます少なくなっていることが、松岡氏を悲しい気持ちにさせてやまない。彼女は、この歴史の問題が適切に解決されない責任は、完全に日本側にあると一貫して考えている。戦争責任を徹底的に清算しないのは、日本人にとっても一種の不幸だ。
松岡氏の家には100本以上のビデオテープがあり、戦争体験者の数百時間にわたる証言が記録されている。彼女は今、時間は私たちを待ってくれないという危機感を感じている。そして、これらの「記録」のデジタル保存を急いでいるところだ。
松岡氏の「歴史を守る戦い」はまだ続いている。
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