井上氏は何年もの間埋もれていた資料の中から、当時日本軍が旅順で行った野蛮な虐殺や日本当局の事実隠蔽工作に関する資料を集めて整理した。当時日本の軍国主義によってこき使われた日本兵らは、戦後帰国して体験者や目撃者の立場から手記、手紙、日誌などを記しており、それらはすべて井上氏の重要な収集資料となった。理性を完全に失った殺戮現場、虐殺後に広がるこの世とは思えない悲惨な光景を、ある元日本兵は「その光景を筆で表現するならば、文才ある人が数日かけて観察し、数週間かけて執筆しなければならないだろう。その分量は毎日数ページ、いや何ヶ月かけて書いても書き終わらないかもしれない」と胸のうちを記している。
すべての資料を複写し大連に寄贈
2年の難しい調査と証拠探しを経て、大量の確実な第一資料を集めた上で、井上氏は約20万字からなる一冊の日本語版「旅順虐殺事件」にまとめた。
1995年12月、「旅順虐殺事件」(日本語書籍名)は筑摩書房から出版され、日本のメディア学術界で大きな反響を呼ぶと共に、「旅順大虐殺」発生後の100年間で日本で出版された初の「事件の全貌を反映した専門書」となり、日本人が忘れかけていた歴史の扉を開くこととなった。
翌年の1996年12月、同書籍は「第2回日本平和・協同ジャーナリスト基金賞」を受賞、舞台化され日本で公演された。長きにわたり法廷で日本政府と教科書検定制度をめぐり争う東京教育大学の家永三郎教授は同書を、「詳細な資料に基づき綿密に事件を論証した力作」と評価している。
旅順万忠墓記念館の張暁倩副館長によると、2000年3月15日、井上氏は自身の日本語著書と長文の手紙を同記念館に送り、中国の読者にこの書籍を紹介してもらいたいと切に望んだ。また、「旅順大虐殺」を研究する中国人がわざわざ日本に足を運ぶことなく、殉難の地でも研究ができるようにと、長年日本で集めた資料もすべて複写して添え、同館に寄贈したという。
2001年、「旅順虐殺事件」は中国語に翻訳され、「旅順大虐殺」として発刊された。100年以上の時を経て、ついに井上氏のような良識をもつ日本人作家が立ち上がり、大虐殺の真相を語る者が現れたのだ。井上氏はこの書籍を通じて歴史を還元したばかりでなく、一人の日本人の良識の旅を終えたのだ。
(人民網日本語版)
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