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G20杭州サミットにおけるグリーン金融協力への期待
jp.xinhuanet.com | 発表時間 2016-08-31 10:57:16 | チャイナネット | 編集: 吴寒冰

岡﨑雄太・上智大学地球環境学研究科准教授

杭州サミットで注目される気候変動問題

中国が初めて主催するG20首脳会合(サミット)が9月4・5日に浙江省杭州で開催される。杭州は、「天上に天国あり、天下に蘇州・杭州あり」と中国で古くから言い表されているとおり、中国を代表する水と緑の美しい風景に恵まれた街であり、近年では、環境モデル都市としての取組が進められている。

G20サミットは、G7参加国及び中国、EU、ロシアに11の新興経済国を加えた20か国・地域(世界のGDPの約9割を占める)の首脳が金融・世界経済をテーマに議論を行う会合だが、近年、テロ対策や気候変動などの国際的な課題も議題に取り上げられてきた。G20参加国によるエネルギー起源CO2排出量は、世界全体の8割以上を占めることから、ハイレベルで取組の強化を確認し、低炭素型経済への移行に向けた合意を目指す意義は大きい。

G20に先立ち5月に日本で開催されたG7伊勢志摩サミットでは、昨年合意された気候変動パリ協定(気温上昇を2度ないし1.5度以内に抑制するため、今世紀後半までにCO2排出をほぼゼロとするとの内容)の2016年内の発効に向けて取り組むことが合意された。

杭州サミットでも、パリ協定の実施の加速化が論点になるだろう。同協定の発効要件は、55か国以上かつ世界の排出量55%以上を占める国による批准だ。8月23日時点で23か国が批准しているが、排出量比はわずか1%にすぎない。こうした中、中国政府はG20の重要テーマとして気候変動を掲げ、8月末から開催される全人代常務委員会でパリ協定の批准手続きを経る予定で、杭州サミットにG20初の批准国として臨み、各国に早期批准を呼びかけることとなる。

鍵となるグリーン金融

また、中国政府が推進するのが、お金の流れを変えることでCO2や汚染物質の削減を進めようとするグリーン金融の推進だ。8月24日には、総計保有資産が13兆ドルを超える世界の130の機関投資家が、杭州サミットに参加する各国首脳に向け、年内のパリ協定批准を呼び掛けた。この背景には、今後、CO2排出ゼロ実現に向けた各国の取組が進めば、石炭などの化石燃料は「座礁資産」として価値を失うことになり、投資家にとって大きなリスクが生じるという問題がある。そのため彼らは、各国政府が協調して、CO2排出に対する規制や価格付けの政策を進め、エネルギー資源への長期的な投資判断に対して確固たる見通しを与えることを求めているのだ。

中国では、2013年から5市2省で発電所や工場からのCO2排出総量を規制し、企業間で排出量の過不足を売買する取引制度を試行的に導入しており、2017年から全国展開の予定だ。対象業種は電力、鉄鋼、石油化学、化学工業、建設材料、有色金属、製紙、航空の8業種で、年間石炭消費量1万トン(年間CO2排出量2.6万トン)以上の企業を対象とし、今年10月に各企業の来年度の排出枠を配分するとしている。年間の取引見込み額は12億~80億元、今後先物取引市場が整備されると600億~4,000億元規模に上るとされている。試行制度には、中国で展開する日系電機メーカーや日系スーパーも対象となっており、今後の全国制度もにらみ省エネ機器の設備投資などを強化している。CO2対策は大気汚染対策にも直結し、二重の便益をもたらすことが期待される。目下懸案の鉄鋼の過剰生産能力の問題についても、効率的な設備に集約することにより環境上のメリットが生まれる。

今後、中国全土で省エネや再エネへの投資が加速する可能性があり、日本企業にとっても省エネ・環境ビジネスの市場が広がることになる。もっとも、地球環境を守るための取組は、世界が同時に協力して推し進めることで、はじめてグローバルな企業や投資家の行動の変化を促すことにつながる。一部の国で歩みが留まれば、汚染源が集中してしまうだろう。

今後の協力の展望

このように考えると、経済問題を議論するG20サミットは、気候変動問題をはじめとする環境問題を議論するのに最もふさわしいフォーラムであるといえる。環境問題はすなわち経済問題である。低炭素型経済への移行は、一刻も猶予はない。さらに、米国大統領選候補者のトランプ氏が気候変動の科学的事実さえも認めていないことで、世界でこの問題に取り組む人々の間には焦りがみられる。今回の杭州サミットで新たな合意を重ね、具体的な協力と行動を加速させていくことが必要だ。

今後の協力を進めていく上で、日本が果たすべき責任と役割も大きい。日本には、省エネ・環境技術の優れた蓄積がある。CO2排出量取引制度は、産業界の反対があり実現していないが、Japan Climate Leaders Partnershipという有志企業グループが立ち上がり、技術を生かした効率的な削減を促すための仕組みとして導入を呼びかけている。自治体レベルでは東京都がいち早く制度を導入し大きな実績を上げている。企業に対するきめ細やかな指導や支援は、他の国・地域にも大いに参考になるだろう。

9月中旬には北京で、日中韓の政府関係者・専門家による排出量取引に関するセミナー・専門家会合が開催される。主催者である国家発展改革委員会の責任者は、将来的に中国のCO2市場を日本や韓国の市場とリンクさせる可能性について言及している。日本が展開する二国間クレジット制度の仕組みづくりや排出データベースなどのインフラ整備の面でも、貢献できることは少なくない。

さらに、国際金融機関の投融資判断において、低炭素経済への移行に合致する案件か否か、自然環境や海洋環境の保全に資する案件か否かといった環境審査の実施に、中国とともに先導的な役割を果たすことが期待される。

***

岡﨑雄太:1999年に慶應義塾大学総合政策学部を卒業、環境省(当時の環境庁)に入庁。2006年に米国ジョージタウン大学公共政策大学院で修士号を取得。環境省では、大気汚染、気候変動、環境経済政策の立案に従事。2010~2013年まで在中国日本国大使館で中国の環境政策の分析、日中環境協力の推進などを担当。2015年9月から上智大学地球環境学研究科准教授。

 

(チャイナネット)

 

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新華網日本語

G20杭州サミットにおけるグリーン金融協力への期待

新華網日本語 2016-08-31 10:57:16

岡﨑雄太・上智大学地球環境学研究科准教授

杭州サミットで注目される気候変動問題

中国が初めて主催するG20首脳会合(サミット)が9月4・5日に浙江省杭州で開催される。杭州は、「天上に天国あり、天下に蘇州・杭州あり」と中国で古くから言い表されているとおり、中国を代表する水と緑の美しい風景に恵まれた街であり、近年では、環境モデル都市としての取組が進められている。

G20サミットは、G7参加国及び中国、EU、ロシアに11の新興経済国を加えた20か国・地域(世界のGDPの約9割を占める)の首脳が金融・世界経済をテーマに議論を行う会合だが、近年、テロ対策や気候変動などの国際的な課題も議題に取り上げられてきた。G20参加国によるエネルギー起源CO2排出量は、世界全体の8割以上を占めることから、ハイレベルで取組の強化を確認し、低炭素型経済への移行に向けた合意を目指す意義は大きい。

G20に先立ち5月に日本で開催されたG7伊勢志摩サミットでは、昨年合意された気候変動パリ協定(気温上昇を2度ないし1.5度以内に抑制するため、今世紀後半までにCO2排出をほぼゼロとするとの内容)の2016年内の発効に向けて取り組むことが合意された。

杭州サミットでも、パリ協定の実施の加速化が論点になるだろう。同協定の発効要件は、55か国以上かつ世界の排出量55%以上を占める国による批准だ。8月23日時点で23か国が批准しているが、排出量比はわずか1%にすぎない。こうした中、中国政府はG20の重要テーマとして気候変動を掲げ、8月末から開催される全人代常務委員会でパリ協定の批准手続きを経る予定で、杭州サミットにG20初の批准国として臨み、各国に早期批准を呼びかけることとなる。

鍵となるグリーン金融

また、中国政府が推進するのが、お金の流れを変えることでCO2や汚染物質の削減を進めようとするグリーン金融の推進だ。8月24日には、総計保有資産が13兆ドルを超える世界の130の機関投資家が、杭州サミットに参加する各国首脳に向け、年内のパリ協定批准を呼び掛けた。この背景には、今後、CO2排出ゼロ実現に向けた各国の取組が進めば、石炭などの化石燃料は「座礁資産」として価値を失うことになり、投資家にとって大きなリスクが生じるという問題がある。そのため彼らは、各国政府が協調して、CO2排出に対する規制や価格付けの政策を進め、エネルギー資源への長期的な投資判断に対して確固たる見通しを与えることを求めているのだ。

中国では、2013年から5市2省で発電所や工場からのCO2排出総量を規制し、企業間で排出量の過不足を売買する取引制度を試行的に導入しており、2017年から全国展開の予定だ。対象業種は電力、鉄鋼、石油化学、化学工業、建設材料、有色金属、製紙、航空の8業種で、年間石炭消費量1万トン(年間CO2排出量2.6万トン)以上の企業を対象とし、今年10月に各企業の来年度の排出枠を配分するとしている。年間の取引見込み額は12億~80億元、今後先物取引市場が整備されると600億~4,000億元規模に上るとされている。試行制度には、中国で展開する日系電機メーカーや日系スーパーも対象となっており、今後の全国制度もにらみ省エネ機器の設備投資などを強化している。CO2対策は大気汚染対策にも直結し、二重の便益をもたらすことが期待される。目下懸案の鉄鋼の過剰生産能力の問題についても、効率的な設備に集約することにより環境上のメリットが生まれる。

今後、中国全土で省エネや再エネへの投資が加速する可能性があり、日本企業にとっても省エネ・環境ビジネスの市場が広がることになる。もっとも、地球環境を守るための取組は、世界が同時に協力して推し進めることで、はじめてグローバルな企業や投資家の行動の変化を促すことにつながる。一部の国で歩みが留まれば、汚染源が集中してしまうだろう。

今後の協力の展望

このように考えると、経済問題を議論するG20サミットは、気候変動問題をはじめとする環境問題を議論するのに最もふさわしいフォーラムであるといえる。環境問題はすなわち経済問題である。低炭素型経済への移行は、一刻も猶予はない。さらに、米国大統領選候補者のトランプ氏が気候変動の科学的事実さえも認めていないことで、世界でこの問題に取り組む人々の間には焦りがみられる。今回の杭州サミットで新たな合意を重ね、具体的な協力と行動を加速させていくことが必要だ。

今後の協力を進めていく上で、日本が果たすべき責任と役割も大きい。日本には、省エネ・環境技術の優れた蓄積がある。CO2排出量取引制度は、産業界の反対があり実現していないが、Japan Climate Leaders Partnershipという有志企業グループが立ち上がり、技術を生かした効率的な削減を促すための仕組みとして導入を呼びかけている。自治体レベルでは東京都がいち早く制度を導入し大きな実績を上げている。企業に対するきめ細やかな指導や支援は、他の国・地域にも大いに参考になるだろう。

9月中旬には北京で、日中韓の政府関係者・専門家による排出量取引に関するセミナー・専門家会合が開催される。主催者である国家発展改革委員会の責任者は、将来的に中国のCO2市場を日本や韓国の市場とリンクさせる可能性について言及している。日本が展開する二国間クレジット制度の仕組みづくりや排出データベースなどのインフラ整備の面でも、貢献できることは少なくない。

さらに、国際金融機関の投融資判断において、低炭素経済への移行に合致する案件か否か、自然環境や海洋環境の保全に資する案件か否かといった環境審査の実施に、中国とともに先導的な役割を果たすことが期待される。

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岡﨑雄太:1999年に慶應義塾大学総合政策学部を卒業、環境省(当時の環境庁)に入庁。2006年に米国ジョージタウン大学公共政策大学院で修士号を取得。環境省では、大気汚染、気候変動、環境経済政策の立案に従事。2010~2013年まで在中国日本国大使館で中国の環境政策の分析、日中環境協力の推進などを担当。2015年9月から上智大学地球環境学研究科准教授。

 

(チャイナネット)

 

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