セッション2に登壇する尾崎寛直氏、和田篤也氏、小林一美氏、張仲梁氏。
「地域循環共生圏」がテーマのセッション2では、司会の尾崎寛直同大学准教授が、「地域が自らもつ風土、食、文化を売りにし、イノベーションを続け、外の社会に繋がりグローバルに繋がることを、どう引っ張るのか」と問題提起した。
和田篤也環境省大臣官房政策立案総括審議官は、グローバルリスクである地球温暖化問題の、50年後100年後を見据えた解決構想として、環境省が描いた大絵図を示しながら説明。地域循環共生圏について、「住民が自分たちの目線でオーダーメードの計画を作り、自律分散型再生可能エネルギーシステムの構築、防災、観光、交通、健康など様々な分野で、独自のビジネスを行う。資源・資金・人の循環と自然との共生をコンセプトにし、得意不得意分野を他地域とのネットワークで補い、技術で支えることを目指す。そうしたステージに今後入っていく」と展望した。
神奈川県横浜市は、2015年のパリ協定、国連の持続可能な開発目標SDGsを受け、日本の大都市としては初めて地球温暖化対策実行計画「Zero Carbon Yokohama」を掲げ、街づくりに取り組んでいる。同市の小林一美副市長は、「地域循環共生圏」の大都市モデルの事例を紹介。具体的には、持続可能なライフスタイルを子供達に伝えるエコスクールの開催、新横浜一帯に集積するIT企業と連携した次世代のエネルギー自給システムの構築、小・中学校での蓄電池設置による災害時非常用電源の確保など「モデル活動を相次いで実施し、CO2削減を具体的に示している。これを継続して行うことが大事だ」と述べた。また、再生可能エネルギーに関する横浜市と東北の自治体との取り組みを紹介し、国や他の自治体との防災、福祉、教育面での実践的連携の重要性に言及。横浜市が石油精製、火力発電などいわばCO2排出産業に税収、雇用とも支えられている実情のなかで、「脱炭素経済に向けてどう新しい産業構造や市民社会を作っていくか、また、税金を環境対策にどう回すかが課題だ」と述べた。
中国国家統計局元司長の張仲梁南開大学教授は、京津冀メガロポリスを事例に中国の現状について説明した。同メガロポリスは北京、天津といった巨大で近代的な都市がある一方、周辺の河北省は経済的に遅れを取っている。「北京や天津からの経済的な波及効果が望めないことにより河北省は鉄鋼産業に特化し、深刻な大気汚染を発生させた。結果、北京にも多大な環境被害をもたらした」とし、メガロポリスの発展が中国都市化政策の基本となっている中で、今後目指すべきは「メガロポリス内部の協調発展である」と力説した。
横浜など大都市と比べ人口や財源が少ない小さな自治体の現状をどう考えるかについて、和田氏は「地域循環共生圏の芽が小さな自治体にも様々出ている」とした上で、「共生圏を支える地域の人材育成を図るため、プラットフォーム作りを環境省で立ち上げる」と宣言した。
海外との交流激増の時代に即した都市作りに関しては、小林氏が「魅力ある街、環境に配慮した街作りをすれば、観光客が来る。企業が来て、雇用も増え、税収も増す良い循環ができる。そうした循環と、従来から市を支えて来た基幹産業との関係作りを、市民とともに考える。脱炭素を目指す動きを提示しながら課題解決に向けて、国と連携して実施していく」と決意を述べた。小林氏はまた、20年前に実施したゴミ削減30%運動により、当初予想の半分の年月で目標を超える43%削減を実現し、ゴミ焼却工場を二カ所閉鎖、年間20億円のコスト削減と、大きな成果をあげた横浜市の事例を紹介、「のべ1万回に及ぶ住民説明会を開き、市民や企業がゴミ問題を我が事として行動するようになった。私たちはできる、という意識が結果に繋がった」と振り返った。
張氏は、「中国での環境政策に携わる仲間が、海外の実情から学び、国内の取り組みに生かしている。中国人の海外渡航が増え、実際の交流から優れた思考を受け入れることが、変革をもたらしている」と力説、和田氏も「交流がキーワードだ。交流を契機にプロジェクトを作り、地域の銀行と手をつないで財源不足を補い、現場に密着した技術を導入するアプローチで、動き出すことができる」と強調した。