20日、さまざまな時期の月のマグマと熱進化のイメージ図。(北京=新華社配信)
【新華社北京10月27日】中国の科学者がこのほど、中国の月探査機「嫦娥5号」が持ち帰った月の土壌試料の研究に基づいて月の熱進化の新たなモデルを提示し、月で20億年前まで火山活動が続いたのはなぜかという、学術界を悩ませてきた難問を解明した。
中国科学院地質・地球物理研究所の陳意(ちん・い)研究員によると、月は約45億年前に形成され、その質量は地球の約1%にすぎない。このような小さな天体の場合、理論的には急速に冷却が進み、火山活動は早い段階で停止し「死んだ星」になるという。
嫦娥5号が月から土壌試料を持ち帰ったことで、新たな月研究ブームが起きている。中国の科学者は2021年10月、英科学誌「ネイチャー」に論文3本を発表し、月の火山活動がこれまで想定されていたより約8億年も長い、20億年前まで続いていた可能性を示した。なぜ月の火山活動がこれほど長く続いてきたのかは未解決の問題となっていた。
この問題に対し、陳氏の科学研究チームは、代表的な嫦娥5号玄武岩の岩くずを27片選び、新たに開発した走査型電子顕微鏡分光定量スキャン技術を使って岩くずの全岩主成分を分析し、一連の岩石学および熱力学の組み合わせをシミュレートすることで、嫦娥5号玄武岩の初期マグマ成分の復元に成功した。それをアポロ計画で採取した月の試料の初期マグマと比較して、それらの発生時の深さと温度を算出した。
14日、嫦娥5号が回収した月の土壌の成分を分析する中国科学院地質・地球物理研究所走査型電子顕微鏡・電子プローブ実験室の原江燕(げん・こうえん)エンジニア。(北京=新華社配信)
その結果、嫦娥5号の玄武岩の初期マグマには、アポロ計画の試料よりもカルシウムとチタンが多く含まれていることが分かった。これは、嫦娥5号の玄武岩の月のマントルソース領域に、カルシウムやチタンを豊富に含む物質が多く加えられたことを示唆している。この物質はまさに、月のマグマオーシャンによる後期結晶化の産物であり、熱に溶けやすい特性を持つため、これが追加されたことで月のマントルの融点が著しく下がり、マントルの部分溶融を誘発し、これにより若い月の玄武岩が形成されたと考えられる。さらにシミュレーションを行ったところ、月の内部は十数億年かけて冷え続けても、低下した温度はわずか摂氏80度程度だったことが分かった。
陳氏は、この研究により、月の内部がゆっくりと冷え続ける一方で、月のマグマオーシャンの後期結晶化により生成された融解しやすい成分が月のマントルの深部に加えられ続け、マントルに「カルシウムとチタンを補給」しただけでなく、マントルの融点も下げたために、ゆっくりと冷える月の内部環境を克服して、長期的に持続する月の火山活動を引き起こしたと説明した。
この研究の成果は、国際学術誌「サイエンス・アドバンス」の最新号に掲載された。